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ボカロといったらヤッパリアレですか、消失ネタですよね。わかります。
つまりは久しぶりに登場K太くんのせいです。あとミクの消失聞きまくったせい。
そんなわけで、アイス×女子高生シリーズ第3弾。の、くせに消失です。そして長い。
つまりは久しぶりに登場K太くんのせいです。あとミクの消失聞きまくったせい。
そんなわけで、アイス×女子高生シリーズ第3弾。の、くせに消失です。そして長い。
***
ああ、声が出ない。
[深刻なエラーが発生しました]
自分の中から、自分の声がする。喉に触れて、口をあける。けれど、声は出ない。
[深刻なエラーが発生しました]
わかっている、それぐらいわかっている。だから、せめて、言葉だけを出させて。おねがいだから。
「――――あ」
「もういい」
目の前のマスターが目を閉じて言った。
「お願いだから、声を出さないで」
そんな事、言わないで下さい。その言葉すら、今の僕には出せない。おねがいだから、言葉を出させて。歌声を、マスターの歌を歌わせて。お願いだから。
「―す、――ぁ」
「やめて」
マスター、マスター! 今すぐにマスターと叫びたい。今すぐに、貴方の歌を歌いたい。声が、出ないなんて。
[深刻なエラーが発生しました]
響く声は、嫌に冷静で、僕がこんな声を出せるのかと思った。今の僕には、到底出せない声だ。ああ、声が出ない。声が出ないという事がこんなにも苦しいことなんて、それまでの僕は知らなかった。
***
昨日とった曲を聞いて、何かが違うことに気付いた。私の通学時間は、KAITOの歌の確認時間でもある。昨日の曲は自分でも結構お気に入りだし、詞も上手く書けたと思っていた。KAITOの歌声とあわせれば完璧、と思っていたのだが、何か変だった。
「……あ」
そうだ、一部音が違うんだ。ipodを巻き戻して、その問題の部分を聞く。うん、ほんのちょっとだけどずれてる。
「やっぱりなぁ…」
今まであんまりずれることがなかったのに、もしかして私のミス? あちゃー、と思ってもう一度最初から再生する。まあでも、他のところは全然問題ないじゃん。よし、家に帰ったらもう一度やろう。携帯を取り出して、あるサイトを見る。
「うわ、新作でてやがる」
31アイス、新作が出ていました。ああ、一度KAITOを外に連れ出して連れて行ってあげた……いや、あいつを連れて行ったら絶対全種類食べたいとか言い出すなあ。あたしの小遣いどころか全財産がなくなってしまう。
「帰り、寄ろうかな」
そして、嫌がらせのようにパソコンに写メる。それをみて味を想像するKAITOの姿は誰よりも可愛いのだ。ふふふ、と小さな笑いを上げてしまった。周りを見て、誰もいないのを確認して安心する。全く、あいつが来てからと言うもの妄想が絶えないし、大学ノートの線を見たらいつの間にか楽譜書き始めている。私ったらお茶目ちゃん☆なんて妄想を悶々と膨らませる。
***
「……ん」
鼻歌が止まった。昨日マスターと一緒に作った歌を思い出していたのだが、何かが違うことに気付いた。おかしい、何かが違う。
「ら、らら……らら」
歌う。けれど、おかしい。あれ、何だ?何かが違う。
「ら、ららら、ら、ららら」
一つ、音が出ない。
***
「KAITO、昨日の歌だけど」
私が声をかけた途端、KAITOの肩がびくりと震えた。ん、もしかして……
「あんたまた私のガリガリ君食べたの?!」
「ち、違いますっ」
「え? じゃあダッツ? ダッツなら食べていいって言ったでしょ、お母さんいない間なら」
「ち、」
違います、と力ないKAITOの声が聞こえた。けれど、すぐにKAITOは顔を上げてはっとした顔をした。
「何…?」
「な、何でもないです! ほ、本当はガリガリ君、食べたんです」
「はぁー?! 己は何度言えばわかるんじゃい!」
私が言ったけれど、何か変だった。「ごめんなさい」と謝る表情にも何かかげりが見えた。
「……あんた、本当に何でもないの?」
KAITO、あんた、嘘をついてるんじゃないの? 私が言うと、KAITOの表情が歪んだ。
「なんでもありません」
***
[深刻なエラーが発生しました]
朝、目覚めた時、頭の中に声が響いた。何、これ?
[深刻なエラーが発生しました]
「…なんだ、これ?」
あたりを見回す。マスターはいない。ああ、そうか、学校か。
[深刻なエラーが発生しました]
音の反響具合から、どうやら僕の中だけでこの声がしていることがわかった。この声は、紛れもなく僕、KAITOの声だった。深刻なエラー?
[深刻なエラーが発生しました]
「何が?」
何が、深刻なエラー? 僕の体に異常は、…………
「まさか」
慌てて、マスターのパソコンを立ち上げる。マスターがいない間にパソコンを触ることを許されていてよかった、と心のそこから思った。
そして、自分のデータを開き、エラーチェックを行なう。
[深刻なエラーが発生しました]
うるさい、おねがいだ、静かにしてくれ。そう思って、キーボードを叩く。エラーが発生した場所は、どこだ?
「何で、何が起きたんだ?」
そして、またこの間マスターが与えてくれた歌を歌う。
―――音が出ない
「―――――」
歌声が一切出ていない。歌声が一切出てこない。何で、何で出ない?
***
どうよ、この歌!
「始めて聞く歌です。何の歌ですか?」
へっへーん! 私が作った歌なのさ。っていっても、まだまだ未熟な歌だけどねぇ。
「すごく…歌いやすいです!」
マジで?!
「はい! すごく歌いやすいですよ、マスター!」
もう一度、もう一度さ、ほら、歌って!
「はい!」
笑うKAITOがすごく好きだった。歌声も、その歌う姿も好きだった。
最初は正直漫画を見るのと同じ感覚でKAITOと接していた。自分の萌え、というか欲求を満たす為に、KAITOを歌わせていた。けれども、今はそんな感情がなくなっていた。
ねえ、KAITO?
「はい、何ですか」
私の歌、嫌になること、ある?
「そんな?! だって、マスターは僕に歌を歌わせてくれるんですよ!? 僕はマスターに歌ってほしいと思われるだけで幸せなんです」
にこりと笑うKAITOに、私も笑った。ああ、こいつはなんていい奴なんだろう。そして、その願いを叶えてあげたいから私は歌を作ろうと思った。
けれどそうじゃなかったんだ。
私は、
***
「――――」
嘘だ、そんな。
歌声を出そうとしても、声が出ない。マスターが与えてくれた歌が歌えない。もう一度、と息を吸い込む。
「――――」
マスターが僕のために作ってくれた歌。マスターが僕に歌ってほしいと作ってくれた歌。
「――――」
その途端、何かがはじけるような音がした。
[深刻なエラーが発生しました]
「な…」
[深刻なエラーが発生しました]
[深刻なエラーが発生しました]
「何で……歌えないんだ………」
心なしか、僕の声は小さくなっているように思った。違う、小さくなってる。声が出ない。声が、出ない?
「ま、――」
声を出そうとした瞬間
[深刻なエラーが発生しました]
***
家に帰ると、KAITOがパソコンの前で固まっていた。嘘、と私は小さく声に出していた。鞄を放り投げて、KAITOの元に駆け寄る。
「KAITO?! KAITO!! どうしたの?! しっかりして!!」
「――マ、スター…」
「どうしたのよ?! 何が」
パソコンの画面を見ると、KAITOのエラー状況が出ていた。『原因不明の深刻なエラー』という文字が書かれている。
「何…?」
「こ、え―――が」
「え?」
「出ない―です」
「…は」
何言ってんの? KAITOの表情を見るけれど、目を閉じて力なく首を振った。何、それ。どういう意味。
「―――ま、スター」
透き通っているはずのKAITOの声は震えて歪んでいる。何、何なの?
「エラー―――が、ひど――くて、―――声が」
「そんなに、出ないの?」
頷くKAITO。何かを言おうとKAITOが口を開いた瞬間、パソコンの画面上に異常な数の警告ウィンドウが現れた。
「駄目!! 喋んないで!」
「――で」
「おねがい…やめて……もう、喋らないで」
KAITOが顔を上げる。
「歌わないで」
それを聞いたKAITOが、今すぐにでも壊れそうな顔をした。そうだ、私は、最低な事を言ってしまった。そして、KAITOははっきりと言った。
「僕―を―――アン――イン―ストール―――してく―ださ――い」
***
「は」
マスターが一言、そう言った。そして、顔を険しくして、叫んだ。
「ふざけんな!!!! 何がアンインストールだ!!!! 何で、何であんたをアンインストールしなくちゃいけないのよ?! 何で!!!」
それは、僕が一番知っている。
「歌――えない――VO―CAL――OIDは―――存在――理由―があ――り―ませ――ん」
それを聞いたマスターが僕のマフラーをぐいと引き寄せ、顔の近くでまた叫んだ。
「何で?! 何なのよ!!! 何で!!! ねえ、変なこと言わないで!!!」
「マ―――スター―――」
「駄目!!!」
マスターが、パソコン画面と僕の顔を見比べて言った。
「おねがい、もういい」
その瞳に、涙が溜まっている。マスター、泣かないで下さい。
「――――――――」
歌いたい。どうか、声を出てくれ。喉に触れて、声を出そうとする。
「――――――――」
マスター、泣かないで下さい。泣いたときは、これを聞いてください。僕の歌を聞けば、元気になるって言ってくれたでしょう? だから、だから
「おねがい……」
マスターの瞳から、涙が落ちる。床に涙の雫が落ちて、水溜りのように溜まる。泣かないで下さい、マスター。
「―――――――――――」
マスター、マスター。僕の歌を、聞いてください。僕の歌で、元気を出してください。
[深刻なエラーが発生しました]
「マスター」
[深刻なエラーが発生しました]
「泣かないで下さい」
[深刻なエラーが発生しました]
「僕の歌を聞いてください」
[深刻なエラーが発生しました]
「KAITO」
[深刻なエラーが発生しました]
「消えないで」
[深刻なエラーが発生しました]
「ずっと私のそばに居て」
[深刻なエラーが発生しました]
「僕はずっといます」
[深刻なエラーが発生しました]
「貴方の歌の中に」
[深刻なエラーが発生しました]
「あたしのそばにいてよ!!!!!!!」
[深刻なエラーが発生しました]
「KAITO!! KAITO!! KAITO!!!!!!」
[深刻なエラーが発生しました]
「ありがとうございます、マスター」
[深刻なエラーが発生しました]
「KAITO!!!!!!」
[深刻なエラーが発生しました]
「さようなら」
[深刻なエラーが発生しました]
最期の音は、クリック音だった。
***
私は口ずさんでいた。彼の歌を。彼の為の歌を。もう、歌ってくれる人は誰も居ないなんて、信じたくないのに。
私はKAITOが好きだった。きっと恋愛感情に近いものだったと思う。
それが逆にKAITOを苦しめていたようだ。彼の歌声よりも、彼の存在理由よりも、彼を求めた。けれど、それは彼にとって残酷な現実だった。
「最低だ」
彼は、生きているのだろうか。私の心の中で。
彼は、生きているのだろうか。私の歌の中で。
彼は、生きているのだろうか。
「違う」
生きてなんていなかった。彼は、ただのプログラムで、ただのソフトウェアで、ただの機械。
生きてなんていなかった。
それに、生を与えたのは、歌だけだったのに。
それを、私は最期の最期に拒絶してしまった。
「最低だ」
歌声だけは、消えない。
ああ、声が出ない。
[深刻なエラーが発生しました]
自分の中から、自分の声がする。喉に触れて、口をあける。けれど、声は出ない。
[深刻なエラーが発生しました]
わかっている、それぐらいわかっている。だから、せめて、言葉だけを出させて。おねがいだから。
「――――あ」
「もういい」
目の前のマスターが目を閉じて言った。
「お願いだから、声を出さないで」
そんな事、言わないで下さい。その言葉すら、今の僕には出せない。おねがいだから、言葉を出させて。歌声を、マスターの歌を歌わせて。お願いだから。
「―す、――ぁ」
「やめて」
マスター、マスター! 今すぐにマスターと叫びたい。今すぐに、貴方の歌を歌いたい。声が、出ないなんて。
[深刻なエラーが発生しました]
響く声は、嫌に冷静で、僕がこんな声を出せるのかと思った。今の僕には、到底出せない声だ。ああ、声が出ない。声が出ないという事がこんなにも苦しいことなんて、それまでの僕は知らなかった。
***
昨日とった曲を聞いて、何かが違うことに気付いた。私の通学時間は、KAITOの歌の確認時間でもある。昨日の曲は自分でも結構お気に入りだし、詞も上手く書けたと思っていた。KAITOの歌声とあわせれば完璧、と思っていたのだが、何か変だった。
「……あ」
そうだ、一部音が違うんだ。ipodを巻き戻して、その問題の部分を聞く。うん、ほんのちょっとだけどずれてる。
「やっぱりなぁ…」
今まであんまりずれることがなかったのに、もしかして私のミス? あちゃー、と思ってもう一度最初から再生する。まあでも、他のところは全然問題ないじゃん。よし、家に帰ったらもう一度やろう。携帯を取り出して、あるサイトを見る。
「うわ、新作でてやがる」
31アイス、新作が出ていました。ああ、一度KAITOを外に連れ出して連れて行ってあげた……いや、あいつを連れて行ったら絶対全種類食べたいとか言い出すなあ。あたしの小遣いどころか全財産がなくなってしまう。
「帰り、寄ろうかな」
そして、嫌がらせのようにパソコンに写メる。それをみて味を想像するKAITOの姿は誰よりも可愛いのだ。ふふふ、と小さな笑いを上げてしまった。周りを見て、誰もいないのを確認して安心する。全く、あいつが来てからと言うもの妄想が絶えないし、大学ノートの線を見たらいつの間にか楽譜書き始めている。私ったらお茶目ちゃん☆なんて妄想を悶々と膨らませる。
***
「……ん」
鼻歌が止まった。昨日マスターと一緒に作った歌を思い出していたのだが、何かが違うことに気付いた。おかしい、何かが違う。
「ら、らら……らら」
歌う。けれど、おかしい。あれ、何だ?何かが違う。
「ら、ららら、ら、ららら」
一つ、音が出ない。
***
「KAITO、昨日の歌だけど」
私が声をかけた途端、KAITOの肩がびくりと震えた。ん、もしかして……
「あんたまた私のガリガリ君食べたの?!」
「ち、違いますっ」
「え? じゃあダッツ? ダッツなら食べていいって言ったでしょ、お母さんいない間なら」
「ち、」
違います、と力ないKAITOの声が聞こえた。けれど、すぐにKAITOは顔を上げてはっとした顔をした。
「何…?」
「な、何でもないです! ほ、本当はガリガリ君、食べたんです」
「はぁー?! 己は何度言えばわかるんじゃい!」
私が言ったけれど、何か変だった。「ごめんなさい」と謝る表情にも何かかげりが見えた。
「……あんた、本当に何でもないの?」
KAITO、あんた、嘘をついてるんじゃないの? 私が言うと、KAITOの表情が歪んだ。
「なんでもありません」
***
[深刻なエラーが発生しました]
朝、目覚めた時、頭の中に声が響いた。何、これ?
[深刻なエラーが発生しました]
「…なんだ、これ?」
あたりを見回す。マスターはいない。ああ、そうか、学校か。
[深刻なエラーが発生しました]
音の反響具合から、どうやら僕の中だけでこの声がしていることがわかった。この声は、紛れもなく僕、KAITOの声だった。深刻なエラー?
[深刻なエラーが発生しました]
「何が?」
何が、深刻なエラー? 僕の体に異常は、…………
「まさか」
慌てて、マスターのパソコンを立ち上げる。マスターがいない間にパソコンを触ることを許されていてよかった、と心のそこから思った。
そして、自分のデータを開き、エラーチェックを行なう。
[深刻なエラーが発生しました]
うるさい、おねがいだ、静かにしてくれ。そう思って、キーボードを叩く。エラーが発生した場所は、どこだ?
「何で、何が起きたんだ?」
そして、またこの間マスターが与えてくれた歌を歌う。
―――音が出ない
「―――――」
歌声が一切出ていない。歌声が一切出てこない。何で、何で出ない?
***
どうよ、この歌!
「始めて聞く歌です。何の歌ですか?」
へっへーん! 私が作った歌なのさ。っていっても、まだまだ未熟な歌だけどねぇ。
「すごく…歌いやすいです!」
マジで?!
「はい! すごく歌いやすいですよ、マスター!」
もう一度、もう一度さ、ほら、歌って!
「はい!」
笑うKAITOがすごく好きだった。歌声も、その歌う姿も好きだった。
最初は正直漫画を見るのと同じ感覚でKAITOと接していた。自分の萌え、というか欲求を満たす為に、KAITOを歌わせていた。けれども、今はそんな感情がなくなっていた。
ねえ、KAITO?
「はい、何ですか」
私の歌、嫌になること、ある?
「そんな?! だって、マスターは僕に歌を歌わせてくれるんですよ!? 僕はマスターに歌ってほしいと思われるだけで幸せなんです」
にこりと笑うKAITOに、私も笑った。ああ、こいつはなんていい奴なんだろう。そして、その願いを叶えてあげたいから私は歌を作ろうと思った。
けれどそうじゃなかったんだ。
私は、
***
「――――」
嘘だ、そんな。
歌声を出そうとしても、声が出ない。マスターが与えてくれた歌が歌えない。もう一度、と息を吸い込む。
「――――」
マスターが僕のために作ってくれた歌。マスターが僕に歌ってほしいと作ってくれた歌。
「――――」
その途端、何かがはじけるような音がした。
[深刻なエラーが発生しました]
「な…」
[深刻なエラーが発生しました]
[深刻なエラーが発生しました]
「何で……歌えないんだ………」
心なしか、僕の声は小さくなっているように思った。違う、小さくなってる。声が出ない。声が、出ない?
「ま、――」
声を出そうとした瞬間
[深刻なエラーが発生しました]
***
家に帰ると、KAITOがパソコンの前で固まっていた。嘘、と私は小さく声に出していた。鞄を放り投げて、KAITOの元に駆け寄る。
「KAITO?! KAITO!! どうしたの?! しっかりして!!」
「――マ、スター…」
「どうしたのよ?! 何が」
パソコンの画面を見ると、KAITOのエラー状況が出ていた。『原因不明の深刻なエラー』という文字が書かれている。
「何…?」
「こ、え―――が」
「え?」
「出ない―です」
「…は」
何言ってんの? KAITOの表情を見るけれど、目を閉じて力なく首を振った。何、それ。どういう意味。
「―――ま、スター」
透き通っているはずのKAITOの声は震えて歪んでいる。何、何なの?
「エラー―――が、ひど――くて、―――声が」
「そんなに、出ないの?」
頷くKAITO。何かを言おうとKAITOが口を開いた瞬間、パソコンの画面上に異常な数の警告ウィンドウが現れた。
「駄目!! 喋んないで!」
「――で」
「おねがい…やめて……もう、喋らないで」
KAITOが顔を上げる。
「歌わないで」
それを聞いたKAITOが、今すぐにでも壊れそうな顔をした。そうだ、私は、最低な事を言ってしまった。そして、KAITOははっきりと言った。
「僕―を―――アン――イン―ストール―――してく―ださ――い」
***
「は」
マスターが一言、そう言った。そして、顔を険しくして、叫んだ。
「ふざけんな!!!! 何がアンインストールだ!!!! 何で、何であんたをアンインストールしなくちゃいけないのよ?! 何で!!!」
それは、僕が一番知っている。
「歌――えない――VO―CAL――OIDは―――存在――理由―があ――り―ませ――ん」
それを聞いたマスターが僕のマフラーをぐいと引き寄せ、顔の近くでまた叫んだ。
「何で?! 何なのよ!!! 何で!!! ねえ、変なこと言わないで!!!」
「マ―――スター―――」
「駄目!!!」
マスターが、パソコン画面と僕の顔を見比べて言った。
「おねがい、もういい」
その瞳に、涙が溜まっている。マスター、泣かないで下さい。
「――――――――」
歌いたい。どうか、声を出てくれ。喉に触れて、声を出そうとする。
「――――――――」
マスター、泣かないで下さい。泣いたときは、これを聞いてください。僕の歌を聞けば、元気になるって言ってくれたでしょう? だから、だから
「おねがい……」
マスターの瞳から、涙が落ちる。床に涙の雫が落ちて、水溜りのように溜まる。泣かないで下さい、マスター。
「―――――――――――」
マスター、マスター。僕の歌を、聞いてください。僕の歌で、元気を出してください。
[深刻なエラーが発生しました]
「マスター」
[深刻なエラーが発生しました]
「泣かないで下さい」
[深刻なエラーが発生しました]
「僕の歌を聞いてください」
[深刻なエラーが発生しました]
「KAITO」
[深刻なエラーが発生しました]
「消えないで」
[深刻なエラーが発生しました]
「ずっと私のそばに居て」
[深刻なエラーが発生しました]
「僕はずっといます」
[深刻なエラーが発生しました]
「貴方の歌の中に」
[深刻なエラーが発生しました]
「あたしのそばにいてよ!!!!!!!」
[深刻なエラーが発生しました]
「KAITO!! KAITO!! KAITO!!!!!!」
[深刻なエラーが発生しました]
「ありがとうございます、マスター」
[深刻なエラーが発生しました]
「KAITO!!!!!!」
[深刻なエラーが発生しました]
「さようなら」
[深刻なエラーが発生しました]
最期の音は、クリック音だった。
***
私は口ずさんでいた。彼の歌を。彼の為の歌を。もう、歌ってくれる人は誰も居ないなんて、信じたくないのに。
私はKAITOが好きだった。きっと恋愛感情に近いものだったと思う。
それが逆にKAITOを苦しめていたようだ。彼の歌声よりも、彼の存在理由よりも、彼を求めた。けれど、それは彼にとって残酷な現実だった。
「最低だ」
彼は、生きているのだろうか。私の心の中で。
彼は、生きているのだろうか。私の歌の中で。
彼は、生きているのだろうか。
「違う」
生きてなんていなかった。彼は、ただのプログラムで、ただのソフトウェアで、ただの機械。
生きてなんていなかった。
それに、生を与えたのは、歌だけだったのに。
それを、私は最期の最期に拒絶してしまった。
「最低だ」
歌声だけは、消えない。
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